「キャサリン・フルボディ」の精神科医によるネタバレ感想~品川心療内科コラム

「キャサリン・フルボディ」の精神科医によるネタバレ感想~品川心療内科コラム

今回の内容は、非常に重要なネタバレについて含んでいます。「この期に及んでまだプレイしていないが、一生のどこかでプレイするかもしれないゆえにネタバレは絶対にイヤだ」という方は回れ右してください。

よろしいでしょうか。

さてあなたはキャサリンというゲームについてご存じでしょうか。
女神転生やペルソナシリーズでも有名なアトラスという会社が出した、アクションパズルゲームです。

キャサリン(特典なし) - PS3

アクションパズル要素は、まぁ、すごくシンプルです。
ひたすら「石の山」を、石を動かして登っていく…という。それだけのゲームです。

ただ、それだけだったら、もちろんそこまで人気は出ません。
このゲームのすごいところは、そこに「男と女の恋愛ストーリー」をミックスしたところです。

このアクションパズルの世界は、主人公である男が見る「悪夢」の世界。
何と彼は、毎晩その悪夢を見ることになってしまい、その悪夢の中で、石の山を登ることに失敗すると、現実でも死んでしまう…
という恐ろしい状況になってしまいます。
この悪夢に引き込まれるのは「現実で何らか(主に異性)のトラブルがある男」と決まっています。というか、町の男はほぼ大半が引きずり込まれています。

そして主人公であるヴィンセントは、現実で二人の「キャサリン」という女性と出会います。
一人はKatherineというKで始まるキャサリン。スリムで真面目なキャリア系OLで、まもなく結婚することが決まっています。
もう一人はCatherineというCで始まるキャサリン。バーで突然に出会った、ちょっとただれた雰囲気のある、お色気たっぷりな美女です。
そしてCのキャサリンとも関係を持ってしまうことから、悪夢が始まってしまうのです。

すなわち、そのままだとすんごいシンプルなアクションパズルゲームに、そんな「悪夢と死」という緊張感を持たせ、なおかつ二股をした男の悲喜劇をミックスしたところが、このゲームが売れた最大の理由だと思います。すごい。

たとえるなら、「ぷよぷよ」で、敵キャラたちとムダに三角関係が始まるみたいな感じです。あの足が生えた魚とかとドロドロした愛憎劇があるみたいな。
これはこれで売れるのか何なのか。

くわえてキャサリンの場合、石の山に「ボス」が登場し、登るヴィンセントを追いかけてきます。

たとえば
「Kのキャサリンから結婚を迫られた」という日の夜に悪夢を見たときは、
ウェディングケーキを突き刺してくる、悪魔のようなビジュアルの本人がボス。

「Kのキャサリンが妊娠したかも!?」という夜には、
チェーンソーを持ったツギハギの赤ちゃんが「パパァ…!」と襲いかかってきます。
ひどい。

Cのキャサリンも例外なく、目をひんむいたモンスターとして襲ってくる晩もあります。

とにかく全体においてひどい世界観と異常な恋愛観、それでいて男が「分かる分かる…!」というシーンも多々あり、非常に面白いゲームでした。

特にラストはKとC、どっちを選ぶか、またどちらも選ばないか、みたいな選択によりエンディングが変わります。
特にCキャサリンは実は女悪魔で、こちらのエンディングでは地獄で女悪魔たちに囲まれてウハウハ、みたいなのも男の中学生的妄想をくすぐりました。

何にせよ、色々な意味で非常に面白く、心躍るゲームでした。

そして!
そんなキャサリンに、ついに続編…というか、「+αバージョン」が、少し前に発売しました。
それこそが「キャサリン・フルボディ」。

キャサリン・フルボディ - PS Vita

フルボディとはワイン用語で「濃厚なワイン」くらいな意味ですが、それと、まぁ、ボディ的なセクシーな意味を兼ねているのかもしれません。

そして今回! 何と新しいヒロインとして、三人目である
「Qatharine」という、Qのキャサリンが登場します。
とはいえさすがに三人目となるとややこしいのか、作中では「リン」と呼ばれています。シンプル。

で、Kキャサリンがスリムで知的、Cキャサリンがセクシーで妖艶とするなら、この「リン」は、いわゆる「幼い美少女」です。言葉の定義があいまいなので使うのをためらうのですが、「ロリ」的な女性です。

くわえて単なるロリな存在だけでなく、どうやら「癒し系」であることが判明します。
ピアノが得意で、音楽を通して人の心を安らがせ、さらには主人公ヴィンセントにたいして
「大丈夫。どんなときでもそばにいますから」
など優しく包み込みます。

これを知り、「なるほど、アトラスそう来たか」と思いました。

………ちなみに学生時代、ある女性と買い物に行ったときに、コムサ・デ・モードの店の前で、彼女の放った
「なるほど、今年のコムサはこう来るのね」
というセリフが、いまだに記憶に残っています。

すごい。こんな発言、いったい自分は何回くらい転生してこの世を生き直したらできるのか。10回くらい生きてもたどりつかない。すごいセリフだと。
そのブランドはもちろんファッション業界すべてに精通していても、なかなか言えないセリフです。

それ以来、衝撃的なことがあるたびに「なるほど、●●はこう来るのか」というフレーズが頭に浮かびます。どうにかしてほしい。

話を全力で戻しますが、とにかくキャサリン・フルボディはそこまで衝撃でした。
知的な女とセクシーな女、二人に挟まれている状況で、三人目が、癒し系美少女。
これは確かにキャラとしてもかぶりませんし、性的なものだけでなく心のケアを売りにしています。
究極のメニューか至高のメニューか、みたいなところで、優しい接客をウリにした料亭を出してくるようなものです。その発想はなかった。

ちなみにこのフルボディ。ゲームの内容はそのまま前作と同じで、ただ単純に、この「新規ヒロインが+αされた」というだけです。
ただ当然ですが、そのヒロインがいるなら、もう一度購入してプレイする価値はアリアリです。
というか、「このフルボディではじめて買った」という人は少なめでしょうから、ほぼ大半のプレイヤーが前作をプレイし、
フルボディ=リンという新規ヒロインのためのゲーム
と認識して買っていると思ってください。これ前フリです。

何にせよ、否が応にも、期待は高まります。

しかし、です。一点だけ、気になるところがあったのです。
まず予告編の中で、リンはこう言います。
「好きになる人の性別って、そんなに重要ですか?」

え、何それ。
いや、重要だとは思う。

「寿司屋で出るものが寿司かどうかって、そんなに重要ですか?」
と、板前さんがふと漏らしたみたいな。いやそれ重要だろと。
寿司屋さんでハンバーガー出てきたらビックリしますし。
定義から変わってくるだろと。

しかも、です。
予告編の映像の中に、「リンの下着が外れてしまい、それを見たヴィンセントが、口をあんぐり開けて驚く」という演出があるのです。

肝心な部分は見えませんが、これ、大半の人が思うはずです。
「まさか、リンは男だった…?」

………いや! でもまさかねぇ!
考えすぎ! 考えすぎ!
だって肝心な部分は見えてないんですもの!
それ以外にも何かあるはずだ!
女性だけど、そこの何かが何かして、あんぐり驚いてしまったんだ!

い、いっやぁぁぁぁぁ…。
ありえる!? そんなこと、ありえる!?
さすがに、あんぐり驚くほどのことってある!?
どこがどうしてようが、男としては、せいぜい「お、おう」くらいな反応ですよ?
0が1だったとか、よっっっっっっぽどのことがないかぎり、男としてそこまでの驚愕はしないと思います。

いや、でも…。
とにかく何かのミスリードに違いない。
それに、たとえ本当にそうだとしても、ちょっとした魔法とか、または夢の一環だとか…。
そんな理由で、実際はそうではないに違いない。
何か、素敵などんでん返しがあるはずだ!

そんな風に思って、とにかくゲームをワクワク待ち…!
そして、プレイしました!

すると………。

その、まんまでした。
ちゃんと、男でした。
ごくごく普通の普通に、男でした。
何のどんでん返しもなく、100%、混じりっけなく、ダイレクトに、男でした。

えっ。
これ、どうなの?

いや! 誤解ないようお願いしたいんですが!
男性同士の愛が存在することを否定するわけではないんです! それはそれでアリでしょう!

しかし! それなら、そういうジャンルのゲームの中でやればいいだけでは!?
しかも、もとの「キャサリン」は、普通に異性との恋愛ゲームですからね!? 男と女の、ノーマルな恋愛模様が描かれてますからね!?

その続編と言ったら、普通にその気持ちでいるじゃないですか! まさかそうとは思わないじゃないですか!

いや、ね? たくさんいるキャラのうち、一人だけそういうコがいる、とかならまだ分かりますよ? 性の多様性として、そういうのもあるだろう、と。そういうキャラが好きなプレイヤーもいるかもしれないと。
しかし、三人のうち一人ですからね!? 全体から占める面積、大きすぎですからね!?

しかもこの「フルボディ」は、まさにその新キャラのために買った人が大半なわけですから! その一人=「このゲームのすべて」みたいなもので、それが男女逆ですからね!?

これホント、何にたとえたらいいんでしょう。

たとえばイヌ好きのための、イヌと戯れるゲームがあって、「前作ではイヌが二匹だったけど、続編でもう一匹イヌが出るよ!楽しみ!」と思って買ったら、実はそれがネコだった、みたいな。

いやいやいや! それはさすがにちょっと待て!と思うはずです。イヌ好きなら。
キツネとタヌキだろうが、動物プランクトンと植物プランクトンだろうが、ご飯とパンだろうが、何でたとえてもOKです。新作では、ウメとオカカに続いて三種類目のオニギリ登場! でも実はそれ、オニギリじゃなくてサンドイッチでした!

そんなレベルです。
しかもご飯とパンだと、もう「小麦アレルギーだからパン食べられない」みたいな人だって存在しますからね。

とにかく何であっても、「求めるものと違う」のではないかと! ただ一言、それだけではないかと!
重ねて男の子との愛とかはアリですし、それを否定するものではありません。しかし異性愛を期待しているプレイヤーたちに、ドン!と!それだけを提供するのは、違うと思うのです。

ゲーム制作者さん的に、そういうものを表現したかったのだと思います。それはまぁ、いいんですけど。であれば、最初から男だとちゃんと説明すべきではないかと。

「いや、だから予告編で見せてた」

とか言うのでしょうか。
いやいやいや! だとしても「明言」じゃないですから!
もう全部見せろと! いや見せられるわけがないですよ! 知ってた!

でも何だろうこのモヤモヤ感!

それに本当に百万歩ゆずってその「突然に判明する男同士の愛」を受け入れるにしても、今度はそれが予告編でネタバレしてしまってますからね!?
もうよく分からない。ネタバレを責めていいのかいけないのか分からない。

ちなみに「リン」はなぜ男なのに少女のカッコをしていたのか。
それは「実はリンは宇宙人で、宇宙人の兄たちがたくさんいて、その兄たちが、末っ子の弟にかわいいカッコをさせたかったから」だそうです。

もう何だこれはと。
色々詰め込みすぎではないかと。

ちなみに兄たちは本当に地球外生物みたいな造形で、なのに弟だけ人間の形なのも意味が分かりません。
自由に造形作れるなら、普通に最初から女の造形で良かったのではと。

そんな気持ちになりました。

もうね、本当に。
色んな意味で、意味が分からない。

そんなゲームでした。キャサリン・フルボディ。

そういえば「俺の屍を越えてゆけ」という名作ゲームも、続編が非常に「う、ううん…?」な感じだったので、とにかくゲームの続編というのは製作が難しいものなのかもしれません。

自分の人生そのものが微妙なゲームであることを感じつつ、ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

(完)